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The last walz of Syrup16g

3月1日は晴れだった。

初めての日本武道館。初めて1万人って規模を体験する。

最後を見届けに来たんだから、全てを胸に刻んで帰ろうって気持ちで中へ入る。

俺の席は2階南西スタンドC-40だった。

ステージ上の人がマッチ棒ぐれーにしか見えない席だけど、そんな些事はこの際どうでもいい。この場にいられるだけで、それだけでいい。

初めて入った日本武道館はがらんとして、とにかく広かった。こんな場所で最後なのかよ、と思うと苦しくなった。

開演まではずっとCOPYの曲が流れていた。

10分押しでBGMが止まり暗転、開演。拍手の中、メンバーが登場する。終わりの始まりだ。次々と立つ中、周りの人達は殆ど立たなかった。俺も勿論立たない。

客席が静まり返る中、五十嵐の一呼吸が、マイクを通して聞こえた。





“いつのまにか ここはどこだ

君は何をしている”

声が聞こえた瞬間、いろんな感情が噴き出して涙が出てきた。悲しいとか、嬉しいとか、そんな単純な感情でなく、感情の全てがないまぜになったような濁流。涙が止まらなかった。

そのまま生活、神のカルマ、I・N・Mと続く。

涙は止まり、自然と聞き入っていた。

Anything for todayは大好きな曲だから、でも嬉しいって気分でもなくただ聞いていた。

丁寧に、ひたむきに、一曲一曲を慈しむように演奏する3人の姿に感動してたけど、へにょへにょなギターとか歌詞トばすのは相変わらず。最後なのによー五十嵐よー。

希望も初めて聞く。なんか、夢じゃなくて、五十嵐がこっち選んだんだなって、それが嬉しかった。

美しい照明を浴びながら、夕暮れ時の、終わりゆく淋しさを感じる。

センチメンタルと明日を落としてもは何故か弾き語り。何故。

『あー終わっちまうなぁ、終わっちまうぞ』と言う。五十嵐が、トーンはからっとしていた。おちゃらけてもいた。

それはもう、終わりを受け入れてるんだ、最後だと割り切ってるんだっていう、そういう態度だったに違いない。葛藤ではなく、すっきりしてるんだなって感じた。

やっぱりこれが、最後のデートなんだなって思った。

だから立ち上がらず、腕も上げず、何も余計な事を考えず、一音一音を、永遠と瞬間を、光と影のコントラストを、ただただ胸に刻み付けた。

二度書くけど、最後なのに演奏ミスったり歌詞トばしたりした五十嵐だけど、それでも最高だった。どんなロックスターよりも気高く、真摯でいてくれた。

正常の圧倒的な演奏からムカデ、天才、ソドシラソの鋭角的な曲へ、そしてsonic disorderへと繋がっていく。

シロップと出会ったその日から、五十嵐隆が俺にとってのヒーローで、ロックスターで、神だった。

だから1回目アンコールでさくらをやり始めてからずっと悲しくて、さよならとか言うし、最後なのに自分をニセモノとか言うし、一人でも生きていけるさって言うし、そんなんで涙が止まらなくて、視界が歪んでまともに息ができなくなるぐらい泣いていた。もうステージはずっと見てらんなかった。

さよならとか言うなよ。自分を偽物なんて言うなよ。一人でも生きていけるなんて言うなよ。悲しくて、悲しくて、そんな悲しい事言わないで欲しかった。

おっさんだし髭だしかっこわりぃけど、ずっと本物のヒーローだよ、ずっとヒーローで、ロックスターだったよ。

畳み掛けるようにイマジネーションのイントロが流れると、これまでのシロップのライブやあの時の、報われない時間の事や、色々な事が頭に浮かんできて、もっともっと涙が出てきた。今まさに顔をくしゃくしゃにして泣いてんのに、まだ出るかってぐらい出て、鼻水まで出て、声を上げて泣いた。

“さぁ 終わりにしよう 何もかも 全てはそこから始まるさ”

こんな、俺はシロップの事がこんなに好きで、五十嵐も中畑も北田さんもきっと一人一人にちゃんと届くように演奏してくれていて、こんな最高のバンドに、ミュージシャンに出会えてよかったって、心の底からそう思った。

そこでやっと、遅くなったけど、終わりを受け入れる心境になれた。

“心の中に 答えの中に 確かなものは 何一つ無い”

そしてscene throughが悲しみから解き放ってくれた。

二回目のアンコールに『変態』Tシャツを着て登場した五十嵐…ポシャったデザインをわざわざ最後に持ち出して作るぐらいだからもしやと危惧してたら……変態て、それだけは無しだろ…。

she was beautifulから落堕~真空という流れに。真空いつもにも増してよかったな。

3回目のアンコールは中畑が五十嵐をおぶって登場。二匹目のどじょう狙いかよ。でも笑う。

『明日は…来ないなぁ。来ないねぇ』

と言いつつも

『プレーヤーに、明日を歌った歌があります。

良かったら聞いて下さい。

この曲も、明日を歌った歌です』

といい、翌日が始まる。

“諦めないほうが 奇跡にもっと 近づくように”

『Free throw』収録で、シロップで唯一といっていいぐらい希望に満ちた曲。

“幻想も 待ち惚けの日々も

後ろ側でそっと 見守っている

明日に変わる意味を”

涙はもう、流れなかった。

おどけたようなメンバー紹介の後、五十嵐が口を開く。

『長い間、ずっと見ていてくれてありがとう』







ラストはRebornを。

“昨日より 今日がすばらしい日なんて

わかってる そんな事

当たり前の事さ”

五十嵐にとって好きでない、むしろ嫌いだった曲なのに、いつの頃から彼にとって大事な歌になったんだろう。

“時間は流れて 僕らは年を取り

汚れて 傷ついて

生まれ変わってゆくのさ”

感性を失う前に、俺の灰色な青春の終わりにシロップと出会えた事は奇跡みたいなものなのかもしれない。

“期待して 諦めて それでも臆病で

本当の気持ちだけが 置き去りになってゆくよ”

何度聞いたか、イヤフォンを、スピーカーを通して何度も聞いて、何度となく新しい事を見つけて、たくさんの思いを吸い込んだ曲たち。

“手を取り合って 肌寄せあって

ただ何かいいなって空気があって

一度にそんな 幸せなんて

手に入るなんて思ってない

遠回りしていこう”

孤独な時間も、大事な思い出にも寄り添ってくれた曲たち。

“昨日より 今日がすばらしい日なんて

わかってる そんな事

当たり前の事さ”

シロップはこれで終わるけど、この3人での演奏はもう聞けないかもしれないけど、この瞬間に、この場にはいつだって立ち戻れるはず。

“時間は流れて 僕らは年を取り

汚れて 傷ついて

生まれ変わってゆくのさ”

この瞬間は永遠だって、そう思った刹那、武道館の全ての照明が点いた。

ステージはもとより、これだけの人がいたのか、というくらい、たくさんの人、人、人。

悲しさも、淋しさもスッと消え、凛とした空気になった。

“you make it better

we take it better”

ありがとうって、気付いたら声枯らしてありがとうを叫んでいた。

最後は三人で手を取り合い、客席に向かって深々と一礼。

以下はセットリスト。

1.きこえるかい
2.無効の日
3.生活
4.神のカルマ
5.I・N・M
6.anything for today
7.イエロウ
8.月になって
9.負け犬
10.希望
11.センチメンタル
12.明日を落としても
13.もったいない
14.生きたいよ
15.途中の行方
16.ex.人間
17.正常
18.パープルムカデ
19.sonic disorder
20.ソドシラソ
21.天才
22.coup d'Etat~空をなくす
23.リアル

en-1
1.さくら
2.ニセモノ
3.(ふめい)
4.イマジネーション
5.scene through

en-2
1.she was beautiful
2.落堕
3.真空

en-3
1.翌日
2.Reborn

五十嵐ありがとう。

中畑ありがとう。

シロップありがとう。

あの場にいた全ての人達にありがとう。

俺と繋がり合う全ての人達に、ありがとう。

思いの全てを昇華し、永遠として胸に刻みました。

さようなら。ありがとう。
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